寝落ちる寸前の子どもの顔が好き。めちゃくちゃ好き。一生見てられる。
でもここで誤解なきよう言っておくけど、「寝落ち」にもってくまでの「寝かしつけ」は地獄である。しかも二歳の子どものそれはマジで「地獄に落ちろ」と叫んでも差し支えないと思う。マジで。
寝ねぇ。
こんなに寝ないことある?ってくらい寝ない。保育園であんなに遊び呆け、家に帰っても遊び倒し、風呂にめちゃくちゃ入って体もあったまっているというのに、なぜ。
私には二人子どもがおり、上の子はそろそろ保育園でも昼寝のない日があるし、「寝る」という本質を掴んでいるので絵本を読み聞かせていると数十分で寝る。ありがてぇ。問題は下の二歳児だ。
寝ねぇ。
絵本を聞かずに座り込んでいると思ったら、どこからか取り出したおもちゃのトンカチをカァン……カァン……とおもちゃに打ち込み始める。常夜灯に照らされたそれは熟年の職人のそれであるが、いやマジで、今やるやつじゃない。十時半や。
それが終わったと思ったら、今度は人差し指を二本立てる。そしてこしょこしょと「あのねぇ~おかいものいこっか」「いーやー」「え~なんでよ~」と劇場が始まる。令和の世でも自分の指を見立てて遊ぶ奴やってんの??????って正直最初はびっくりしたけど、見慣れたので何とも思わない。「無」である。「無」で私が寝たふりをして横たわっていると、「ママ!ママ!シーッ!ね!にーに寝てるから、しーっね!」と、ドヤ顔で言ってくる。そうやねん。お兄ちゃんは寝たねん。あとはあんただけやねん。
それなのになぜかドヤ顔で「しーっ!よ!」と言ってくる。本人は小声のつもりだろうけど、声むちゃくちゃでかい。しかもそう言いながら歩き回ってにーにの足踏んどる。ついでにママの足も踏んどる。いってぇんだわこれがまた。
とにかくこんなのが最低三十分、下手すりゃ一時間から二時間続く。寝かしつけは地獄だ。毎晩思う。「やってられっか!!!!!!!!!!!!!!!」って思う。
それでも、二歳児にも限界は来る。ある瞬間、お気に入りの布団(夏用の布団を頑なに使ってるからそろそろ勘弁してほしい)と自分の枕を持ってきて、ころりと寝転がる。
「ねんねんこおりお、おこおりお、して!」と要求される。ひたすらに歌いながらトントンする、という「お願いですから誰かこういうマシーンを作って下さい」という時間が流れる。きつい。きついけど、悪いことばかりでもない。
うっすらと薄目を開ければ、必死に眠気に抗う子どもの顔が見える。
オレンジ色の絵本を読む用のスタンドライトに照らされて、ふさふさの眉がしかめっつらになっているのがわかる。ほっぺはぷくぷくまるまるで、産毛まではっきりと見えていた。カッ、とやけくそのように見開かれた目が、徐々に落ちていって、そうして閉じる。でもまた数ミリ開いて、じぃ……とこちらを見てくる。ゴルゴ張りの強い目力なのでわたしも寝たふりをして目を閉じる。でもやっぱ耐えきれなくて開けてしまう。
ファービーみたいな顔をした子どもがおる。
寝る前のあの半開きの目のファービーがおる。
正直内心笑い出したくてぷるぷるしているが我慢する。またカッ!と開いてはファービーになり、閉じて、いやまた開いて……を繰り返す。
ほっぺは相変わらずやわらかい線を描き、小さな全身を自分で布団にグルグル巻きにしている。「寝たくねぇ!!!!!!!!!!」と思っているのがわかる。
そう、彼は寝たくなんてないのだ。全然、ちっとも。
だって世界はめちゃくちゃ楽しいし、起きてればいっぱい面白いことがある。だから寝たくなんてない。でもなんか、眠くて仕方ない。
そういうのが全身で現れる瞬間が私は好きだ。抗いようのないものに身を任せて、「あぁ……寝たくないのに……もう……」と全身で訴えながら眠る子どもを見るのが好きだ。
すう、すう、と音が聞こえる。
鼻は上向きでぴすぴすと言い、唇はツンと尖って、そうして完全に目は閉じてしまって。ばさばさのまつ毛が閉じられるのを見て、やれやれやっとか、と思いながら布団をかけ直す。これを毎晩、毎日。
この瞬間のことを、私は多分、いつか忘れてしまうのだと思う。だから今、こうして書いとこ、と思って書いている。
子どもはいつか勝手に一人で寝るようになり、寝顔を見ることも多分なくなる。だから残しとく。寝なくてトンカチ叩いてたこととか、ファービーみたいな顔になってたこととか、もうマジで寝なくて「寝ろ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」としか思ってなかった自分が、子どもが寝た瞬間「愛し~~~~~~~」ととろけるような胸になることとか、そういうの。
これを書いている隣で子ども二人がすうすう寝ている。
マジで本当に、びっくりするぐらい二人ともそっくりで、そういうの見てるだけ愛しさで爆発しそうになる。そんなことを思いながら私も寝ます。おやすみなさい。